電力自由化が始まり、家庭ごとに電力会社を選べる時代がやってきた。
でも、ちょっと待って。マンションの高圧一括受電サービスなら、
個別乗り換えよりも電気代が安くなるケースがあるようです。
毎年、上がり基調の物価に、税金、マンションにお住いの方であれば、管理費や修繕積立金が値上がりすることもあるはず。そんな管理費などの上昇を抑える手段として、マンションの高圧一括受電サービス(一括受電)を活用している管理組合も多い。

そもそも一括受電とはなにか。一括受電だとどうしてマンションの管理費が抑制できるのか。疑問に思う人も多いはず。まずは簡単に一括受電のおさらいをしよう。
一括受電とは、これまでマンションの各住戸と共用部、それぞれ個別に契約していた電気を、マンション一棟ごとの契約に切り替えること。まとめ買いすることで、低圧の料金メニューから割安な高圧の料金メニューに変わり、電気代の削減ができるわけだ。
なぜ高圧の電気が割安なのか。それは、託送料金の差が関係している。下表の通り。東京電力管内であれば高圧の託送料金が1kWhあたり3.77円であるのに対して、低圧は倍以上の8.57円になっている。この金額差などから、高圧の電気は低圧に比べて割安なものになっている。

そんな安い高圧の電気をまとめて購入するのはいいけれど、それを低圧に変換して、各住戸に分配する必要が出てくる。そのためには新しい設備の導入が必要になるし、他にも月々の検針や請求書の発行業務、さらに設備管理なども電力会社に代わって誰かが行わなければならない。設備導入には多額の初期費用がかかるうえ、そもそも電気を扱うことをマンション住民の誰かが代表して行う、というわけにはいかない。
そこで、企業が代わりに電力会社と契約を結び、電気の分配やその他業務の代行をする。一括受電を提供しているのは、導入実績15万戸以上、シェア約30%と一括受電業界トップの中央電力が筆頭株。同社は2014年に関西電力とも提携済みだ。
このほか、長谷工グループのマンション関連事業を担う長谷工アネシスや、NTTファシリティーズ、オリックス電力、JCOMグループのアイピー・パワーシステムズ、大東建託グループの大東エナジーなどがいる。
すでに約50万戸が一括受電に切り替えており、2020年までには100万戸を超えるとも予測されている。
事業者によっては、通信とのセット割や提携企業のサービスを利用できるなど、サービス内容は様々。では実際、どれほどのおトク度なのか、見ていこう。
共用部削減なら20~40%
専有部なら5%以上の節約が可能
一括受電のプランは大きく2つに分かれている。
1つがマンションの共用部を削減するプランだ。廊下の照明やエレベーター、各住戸に水を供給する給水ポンプといった設備利用にかかる電気代を抑えてくれる。
共用部の電気代は、通常、マンション住民から集めたお金、管理費から拠出されている。マンションの大きさ、戸数、共有部の施設によって幅はあるが、一括受電に変えた場合、共有部の電気代が20~40%ほど削減でき、なかには80%も削減できるマンションまであるそうだ。「年間数百万円削減できるマンションもある」という。
既築マンションであれば、この共用部削減プランを選択するケースがほとんどだと一括受電事業者たちは口を揃える。
というのも、「増税や電気代の上昇によって、管理費が不足し、値上げせざるを得ないといったマンションが多くなっている」からだ。当然、「マンションは時間が経過するほど、外壁などの修繕費用が増える」ため、少しでも電気代を削減し、修繕積立金に回したいと考える管理組合もいる。マンションの住民にとって、月1000円上がるはずだった管理費が、一括受電に変えることで0円になったといった実例もあるようだ。
共用部削減プランがある一方、マンションの専有部、つまり各住戸の電気代を削減するプランもある。こちらは主に新築マンションで採用されるケースが多い。削減率としては一律5%が主流。「他のマンションより電気代が安い」といった付加価値のために、マンションデベロッパーに採用されるケースが多い。
価格だけなら一括受電
自由度なら個別契約
それでは一括受電と個別契約、どちらがよりおトクになるのだろうか。
ズバリ、価格面では一括受電だろう。先述の通り、一括受電は低圧に比べて割安な高圧の電気をまとめて購入するため、その仕組み上、単純な価格競争であれば、一括受電の方に軍配が上がる。
また、マンションは戸建て住宅と比べて電気使用量が少ない傾向にある。一括受電事業者たちはこれまでの実績データから「平均280kWhほど」「300kWh前後の家庭が多い」と語る。
個別契約を一度でも検討した人ならもうお気付きだろう。新電力の多くが、電気使用量の多い家庭を狙った料金設定をしており、300kWh未満の家庭でも安くなるのは、東燃ゼネラルやエイチ・アイ・エスなどごくごく少数。
そもそも共有部削減プランは、「各家庭の電気料金を安くするのではなく、マンションとしての収支改善の手段」(中央電力の北川竜太取締役)となる。一律5%割引される専有部プランであれば、一定使用量までは個別契約よりもかなりの確率でおトクになるだろう。
では気になるボーダーラインだが、「ざっくり400kWh」と東京電力エナジーパートナーリビング事業本部住生活事業部スマートライフ提案第二グループの草刈和俊副部長はいう。
平均使用量が280kWh程度なら、「迷わず一括受電」を選びそうだが、そうもいかない一括受電の弱みが存在する。
一括受電はマンション全体での契約となるため、還元の方法も平等になるよう、全家庭一律の割引にする必要がある。そのため、電気使用量の多い家庭だけ安くする、といったことは難しい。

しかも、一括受電を導入するためには、マンション全戸の同意が必要になる。仮に100戸のマンションで、1戸でも反対すれば一括受電を導入することができない。全戸同意を得るためには、現地調査や住民への説明会、さらに総会を開催して4分の3以上の賛成を得るといった手順を踏まなければならない。一括受電が始まるまで、1年~2年、それ以上かかるケースもあるという。
さらに、自由化が始まったいま、自分たちで電力会社を選びたいといったニーズが増加傾向にある。
価格面はもとより、新電力の一般家庭メニューには、ガスや通信、ガソリンとのセット割やポイント付与など、付加価値サービスが多く、選択肢も広い。
しかも、一括受電は、「設備の初期費用やランニングコストは、安くなった電気代から長期で回収していく」(中央電力の北川取締役)スキームのため、10年~15年といった長期契約が必要になるし、50戸以上のマンション規模でなければ採算が合わないという事情もある。
1年契約が主流の個別契約に比べると、自由度が低いため、北川取締役は、「個別契約ができなくなるのではと、反対される住居者もいる。自由化前と比べて、全戸同意のハードルは高くなっている」という。
4月以降、一括受電がもっとおトクに!?
自由化が始まり、劣勢になりつつある一括受電。そんな現状を打破しようと、サービスを強化する動きが広まりつつある。
中央電力は、4月より従来のプランからさらに「専有部の電気料金を2%割引く」サービスを始めた。共用部削減プランであっても、2%割引は専有部にも適用される。専有部プランであれば、最大12%割引されるという(従来は最大10%)。
さらに中央電力が提携する都市ガス会社から電気を購入すると専有部の電気代がプラス1%割り引かれるサービスも。通信やウォーターサーバーなどとの提携も検討しているという。
一方、14年8月から一括受電の提供を開始した東京電力エナジー パートナー。これまで共用部削減プランのみの提供であったが、今年10月以降、専有部削減プランと、共用部と専有部いずれも削減するミックスプランを新しく追加する。ミックスプランなら共有部15%、専有部3%、専有部プランであれば専有部を5~6%ほど割引できると試算する。
こういったサービス強化の動きは今後も増えるかもしれない。
一括受電か個別契約か。自由化を機に、マンション住民同士で相談するのもいいかもしれない。