コラム
ENERGYeye最新号(2018 Winter・Vol.13)の特集は、「再生可能エネルギーの近未来 話題のテーマを総まくり 2018徹底予測」です。ここでは、特別インタビューの一部を抜粋改変して紹介いたします。
高村ゆかり
名古屋大学大学院教授
たかむら・ゆかり/京都大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科修士課程修了後、静岡大学助教授、龍谷大学教授などを経て、2011年より現職。
———まっ先に入札制度を導入した太陽光発電ですが、札割れという結果でした。この状況をどう分析されていますか。
大規模な太陽光発電所の開発事業はもう可能性がないのか。あるいは、系統接続などに時間がかかり、求められる期限内に系統接続契約の締結ができないと判断されたのか。
それとも、いわゆる「みなし案件」を系統に接続し事業化することに忙殺され、今回は見送ったのか。それなら、18年度の入札であれば、応札数が増えるのか。
なぜ、今回入札枠を割ったのかについて、しっかり分析する必要があります。
現在進行中の系統制約の解消に向けた日本版コネクト&マネージの議論がどうなるのか。あるいは託送料金を発電側にも負担させる発電側課金のゆくえも含めて、今、再生可能エネルギーに関連する重要な制度が検討の途上にあるため、発電事業を組み立てにくい状況にあると思います。
早期にルールを作り上げねばならないものがいくつかありますが、その中の一つに住宅用太陽光発電の2019年問題もあります。
FITを卒業し、本来であれば投資の回収も終わり、安価になった電源をどのように使っていくのか。ビジネスモデルを確立できると、“19年チャンス”にもなるわけです。
これまでは、何をしていいのか、何がダメなのか、はっきりとしたルールがありませんでした。例えば、FITから卒業する電源の電気を誰に売れるのか。逆に誰も買ってくれなかったとき、どうするのか。12月に開催された再エネ大量導入委員会で、FITから卒業する電源の電気については、原則として、契約を結んで小売り事業者に売ること、それがどうしてもできない場合には、送配電事業者が無償で引き取ることとなりました。
小売り事業者にとっても、FITから卒業する、この電源の利用価値は様々あると想定されます。こうしたFIT卒業電源を持っている住宅の情報が、適切に小売り事業者に共有されて、創意ある新しいビジネスモデルが生まれてくるのを期待しています。
———太陽光発電は、2020年度にもFITから卒業させるといううわさもありますが、このまま市場はシュリンクしてしまうのでしょうか。
太陽光発電にはまだまだポテンシャルがあると思います。太陽光発電に限らず、導入拡大に伴いコストが下がってくれば、もちろん、FIT価格は下がり、いずれは卒業します。例えば、太陽光発電のポテンシャルの一つにZEHがあります。エネルギー消費量を削減する住宅が持つ付加価値は、社会的にも広く認識されるようになっています。
もう一つ、導入インセンティブとなるのがEV(電気自動車)です。EVへの転換が、太陽光発電の導入環境を加速度的に変えるでしょう。
14年から16年までの3年間で、世界のEVストック(走行台数)は倍々ゲームで増え、成長の真っただ中にあります。特に増加が顕著なのが欧州と北米、中国、世界の3大自動車マーケットです。あるシンクタンクの予測では、2025年ごろには、EVのコストがガソリン車と同等になり、それを契機に、EVの導入が加速度的に進み、2040年ごろには販売される新車の2台に1台がEVになるとも予測しています。
EVへのモーダルシフトが起これば、住宅に蓄電池がある状態が普通になってしまうわけです。
つまり、蓄電池への追加的投資を必要としない世界がやってくることで、住宅向け太陽光発電を導入するインセンティブが非常に大きくなる。社会の構造転換に伴った追い風が、太陽光発電には吹くだろうと思います。
今、日本だけを見れば、再エネの導入に、系統制約や制度上の障壁など、様々な障壁があるように思われます。しかし、世界全体の大きな流れをみると、太陽光発電や風力発電の拡大が止まらず、確実なものとなっています。系統制約をはじめ、コスト高を生じさせている原因を一つ一つ解消していくことで、日本でもこれから再エネのさらなる拡大が可能だと思います。
他の電源と競争のできる純国産電源となることで、再エネが日本の産業の国際競争力を支える「主力電源」になることを期待しています。
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