コラム

失敗しない中古太陽光発電所取引

稼働済み太陽光発電所を売買する事例が増えているが、安易に手を出すと知らぬ間に損をしてしまうかもしれない。中古太陽光発電所取引の留意点をまとめた。

FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の売電単価の減額や制度変更で太陽光発電所の新規開発のハードルは高まっている。そこで注目されているのが稼働済みの中古太陽光発電所だ。太陽光発電所は安定的な収益源を得やすい優良資産であるうえ、稼働済みならば開発や建設に伴うリスクがないからである。

実際に市場に流通する物件も増えてきた。コロナ禍による資金繰りの悪化で現金化を図ったり、大規模な部品交換が発生する前に売却したりと考える発電事業者が出てきたほか、日本でFITが始動して間もない頃に建設した太陽光発電所を売却し、他国への投資に回そうと動いている外資系企業も少なくない。

仲介サイト利用が無難

中古太陽光発電所の売買で有力な選択肢となり得るのが仲介サイトの活用だ。発電事業者が物件情報を登録し、購入希望者がその情報を問い合わせて商談が始まる。取引成立時には、売買金額の数%がサイト運営者の手数料となることが多い。

利点は取引相手を探す手間が省けること。そして仲介サイトにもよるが、取引成立まで様々な支援をサイト側から受けられることだ。たとえば、ある仲介サイトは、売り手に代わって買い手との商談や銀行との調整、契約書のひな型作成や決済の段取り、名義変更手続きまで支援している。

もちろん、仲介サイトを使わなくても中古太陽光発電所の取引は可能だ。自ら取引先を探さなければならないが、たとえば、金融機関に相談するとよいだろう。金融機関には情報が集まりやすく、買い手にとっては融資の相談もできる。あるいは、O&M(管理・保守)企業を頼るのも手だ。

O&M企業は発電事業者と良好な関係を築いていることが多く、売買情報を把握しやすい立場にある。太陽光発電所の鑑定評価も依頼できよう。

このほか、プロジェクト・ファイナンスを組成するような大規模案件を売却する場合、発電事業者であるSPC(特別目的会社)がファイナンシャルアドバイザーを雇い、2〜3回の入札を実施することもある。入札に参加するためには、金融機関などからの情報収集が欠かせないだろう。

買い手の留意点

では、まず買い手の留意点を3つ挙げる。第一に、太陽光発電所の運用状況を把握することだ。確認すべき事項は発電実績やO&Mの記録、故障や事故の履歴など多い。 

最近では、太陽光パネルをパワーコンディショナの出力よりも多く設置する〝過積載〞を実施している太陽光発電所も増えた。発電量が多いから問題なく稼働しているように見える物件にも、隠れたリスクがある。太陽光パネルは屋外に晒された数日後から劣化が始まり、年々少しずつではあるが、出力が落ちる。この劣化度は発電量だけでは分かりにくく、過積載している発電所ではなおさらだ。発電量の減少が確認されたときは相当劣化が進んでいる恐れがある。したがって、発電量の推移は可能な限り細かく調べるとよいだろう。

O&Mの実施状況では、故障や事故、修繕履歴の確認も必須だ。記録がない場合は不具合が発生している可能性が低くない。故障や事故情報は売り手に開示請求する必要があるが、応じない売り手もいるため、注意すべきである。

それ以外では、ハザードマップを細かく見るほか、太陽光パネルやパワーコンディショナの保証の確認も忘れてはならない。売り手が保証書を保管していても、メーカーが倒産していたり、日本から撤退していたりすることもある。前者の場合は案件の購入は避けるべきだ。後者も同様だが、検討するのであれば、事前に保証対応が可能かどうかメーカーに確認しておこう。太陽光発電所を建設したEPC(設計・調達・建設)企業と連携した方がよいだろう。

第二に、現地調査を実施することだ。専門性が高いため、太陽光発電所の評価や鑑定を請け負う専門業者に依頼する必要がある。費用は数十万円程度だ。

仮に問題なく見える太陽光発電所でも、たとえば土木や構造の問題を抱えているかどうかは注意して見るようにしよう。売電収入に直結する電気的な異常については、厳格に確認するが、これらの点を軽視している買い手が少なくない。

さらに、現地調査へ行った際は、太陽光発電所の近隣住民に声をかけるなどして住民と諍いがないか探っておこう。後々の争いの火種になりかねないからだ。

いずれにせよ、リスクの度合いが分からないまま購入するのは危険だ。現地調査を含めて状況を把握することで交渉材料が集められるかもしれない。

第三に、早めに資金調達の目途を立てておくこと。購入を決断しても他の買い手がつくこともある。とくに資金繰りに窮している売り手は契約締結を急いでいる。現金払いする投資家もいるため、金融機関の審査を待つ間に他の投資家に先を越される可能性がある。

もっとも、中古案件を購入する場合、新設案件よりも融資を受けやすい。某大手地方銀行の再エネ融資担当は、「未稼働の太陽光発電所に融資する場合、完工リスクは大きいが、稼働済み案件はそれが解消されている。発電量の実績もあるので審査のハードルは下がる」と打ち明ける。

売却不可案件に注意

売り手の留意点は、まず、売却不可リスクへの認識だ。低圧太陽光発電所が同じ敷地内に多数並ぶ、いわゆる分譲案件を売却する場合は要注意である。以前は問題なかったが、現在は禁止されているため、たとえば分譲案件の1区画を売ろうとすると、現在の認定基準を満たさないという理由から変更認定が下りない。

さらに、土地の所有権が発電事業者ではない場合、地権者から賃借人の変更の了解を得ることを忘れてはならない。賃借権の登記もしておく必要がある。

その他、経済産業省や電力会社に提出するための資料はもちろん、完成図書をはじめ、買い手が求める書類やデータは可能な限り用意しておこう。確かに売り手市場ゆえ、構造計算書や単線結線図が不足していても買い手がつくかもしれない。だが、資料がないために値段交渉をされたり、あるいは買い手の資金調達に目途が立たず、契約締結寸前になって取引が破綻したりする恐れもある。

そもそも、現在の売り手市場がいつまで続くか不透明だ。太陽光発電所の稼働年数が長くなれば、市場価値は薄れる。つまり、FITの売電期間が残り15年ある物件と、5年しか残っていない物件があれば、後者に目を向ける買い手は少ないというわけだ。発電事業者は太陽光発電所を20年保有するのか、いずれは売却するのか、計画を立てて運用していく必要がある。

そのうえで、売却を視野に入れるのであれば、完成図書は揃えておこう。揃えるべき完成図書についてはJPEA(太陽光発電協会)の『太陽光発電事業の評価ガイド』に載っている。完成図書が手元にない場合は、建設を依頼した販売・施工会社やEPC企業に問い合わせる必要があるが、依頼先の企業が保管していなかったり、倒産していたりすることもある。

値段交渉を経て、両者が売買の意思を固めた後、両者は土地の所有権移転の手続きや、事業計画認定の変更申請、電力会社に対しての事業者名や口座変更の手続きを行い、そして買い手は支払いへと移る。支払いの留意点は、すべての手続きが同日に完了することはないため、支払い時期を契約のなかに盛り込んでおくとよい。支払い時期は当事者間で揉めやすいからだ

 

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