コラム

施設外から遠隔自家消費! 再エネ新スキーム活用術

遠隔地の再生可能エネルギー設備からも自家消費は可能だ。ただ、専門の知識や技術が必要で、再エネ企業との連携が欠かせない。

自己託送制度とは、再生可能エネルギー設備を設置できない施設でも、施設外に設置した再エネ設備から送配電網を経由して自家消費できる仕組みである。ただ、誰もが容易に取り組めるものではない。

まず、〝自己〞への託送ゆえ、電力消費者と発電者は原則同一でなければならない。完全に一致していなくても資本関係や役員の派遣など人的交流のある密接な関係があれば、特定供給という形で認められるが、そもそも電力消費者側の一般企業が施設外の敷地に発電設備を構え、送配電網を介して託送するというのは極めて難しいのである。

というのも〝計画値同時同量〞を守らなければならないからだ。つまり、OCCTO(電力広域的運営推進機関)に対して設備で発電した電力を送配電網にどの程度流すのか、あらかじめ30分単位の計画値を提出し、計画値と同量の電力を供給しなければならない。

たとえば、ある場所の太陽光発電設備で発電した再エネ電力を遠方の工場へ託送する場合、100の電力を流す計画が実際は90や110になると、発電者側にインバランス料金という罰金が発生する。工場で100消費すると計画していたのに実際は90だった場合は、電力消費者側にインバランス料金が課せられる。

このため、自己託送分の電力をすべて消費できる施設で自己託送を活用するのが基本だ。こうしておけば、電力消費量が著しく低下する日時がない限り、問題はない。ただ、発電者側が送配電網に流す電力量、すなわち逆潮流量は精度高く予測しなければならず、ここが鍵なのである。

実際、自己託送を始めるにあたって、地域の送配電会社との事前協議が不可欠だ。発電者は逆潮流量予測の方法や精度、過去の実績などをもとに申請し、送配電会社の許可を得なければならない。

経済性も充分

むろん、経済性も重視すべき点である。自己託送における電力料金単価は、託送料金とインバランス料金、さらに発電設備の発電コストで求められ、これが既存の電力料金単価より安くならなければ、自己託送の経済的メリットはない。

まず託送料金は、各地域の送配電会社の託送料金プランから選ぶことになり、電力消費者と電力小売り会社との契約内容で決まる。たとえば、中部電力管内にある高圧の太陽光発電設備で発電する再エネ電力を、東電管内の特別高圧電力契約を結ぶ施設へ自己託送する場合、託送料金は東電の特高プランとなる。

インバランス料金は、発電者側は発電所のある電力管内の料金が、電力消費者側には電力消費施設のある電力管内の料金がそれぞれ適用される。インバランス料金は計画値に対して外した電力量(kWh)にかかるため、30分ごとに価格が変動し、乱高下が激しい。

では各々どの程度の金額を見込めばよいのか。地域や条件によって異なり、一概には言えないが、自己託送を始めたある電力小売り会社は、託送料金を、高圧電力消費者向けで1kWhあたり5〜6円、インバランス料金を発電者側と電力消費者側を合わせて同1〜2円と試算している。

現在の高圧電力料金が1kWhあたり16〜20円とすると、発電設備の発電コストは、1kWhあたり8円以内に抑えなければならないだろう。太陽光発電設備であれば、管理・保守費や電力系統接続費、土地代、造成費などすべてを含めてkWあたり13・2万円以下まで建設費を抑える必要があるが、これは競争力に優れる再エネ会社であれば、充分可能な価格帯である。

なお、電力消費者が電力小売り会社と低圧電力の契約を結んでいる場合は、自己託送に取り組めない。部分供給というルール上、外部から電力を調達する低圧電力消費者は自己託送に取り組めないのだ。既存の電力契約を打ち切って、使用電力の100%を自己託送で賄う場合はよいが、蓄電設備などが必要で、非現実的なのだ。

再エネ会社と協業

必須このように自己託送は複数の条件をクリアしなければならず、再エネ会社などの協力が欠かせない。事実、2020年2月、ソニーは、出力約1.5MWの太陽光発電設備を静岡県焼津市内の倉庫で稼働させ、余剰電力を中部電力の送配電網を使って静岡県榛原郡の工場へ送電する自己託送を開始したが、東電エナジーパートナーと協業している。東電EPが逆潮流量予測を代行し、設備の運用、維持・管理も手掛けたのだ。

ソニーは2021年4月にも愛知県東海市内の牛舎に設置した太陽光発電設備で発電した電力を全量グループの施設へ送る自己託送を始めるが、これもソニーが太陽光発電所建設のFDと結んだ15年に亘るエネルギーサービス契約によって成立している。すなわち、FDが太陽光発電設備を敷設してO&M(管理・保守)や電力供給を請け負いつつ電力需給管理を技術ベンチャーのデジタルグリッドに委託し、デジタルグリッドは自社の電力取引プラットフォームを通じて発電量の予測や計画値の提出を代行するというスキームである。

一方、東京建物は2021年1月、東京ガスのPPA(電力売買契約)方式による支援を受けて自己託送に着手した。東京ガス100%子会社のTGES(東京ガスエンジニアリングソリューションズ)が埼玉県久喜市の東京建物の施設に太陽光発電設備を建設し、PPAで電力を供給。東京建物は余った電力を群馬県伊勢崎市の自社施設へ自己託送する。TGESは、設備を所有して運用する一方、東京建物の自己託送を支援。設備の発電量や物流施設内の電力消費量を予測し、翌日の逆潮流量情報を東京建物に渡す。

SBエナジーは、自己託送支援サービスを始めるべく、2021年3月に太陽光発電所建設や電力小売りのエコスタイルと提携した。SBエナジーは、FIT(再エネの固定価格買取制度)を活用せずに太陽光発電所を開発し、設備を貸しつつ自己託送を支援するが、設備のEPC(設計・調達・建設)やO&Mから発電量予測やOCCTOへの計画値の提出などの業務はエコスタイルが請け負うのだ。

再エネ100を目指す企業にとって自己託送は有効な手段であるが、有力な協力会社との連携が欠かせないのである。

 

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