コラム

【Special Interview】常葉大学 経営学部 教授 山本隆三

全国で3%、約188万件が電気を乗り換え、
自由化に胸躍らす中、自由化先進国の欧州に目を移すと、
「電気料金が2倍以上も高騰した」「発電所が減り、停電に追い込まれる」
といった不気味な声が聞こえてくる。
そこで、世界の電力情勢に精通する山本隆三教授に、
電気の基本のきから、悪戦苦闘する欧州の実態について、解説してもらった。

Question1
自由化で電気代はほんとに安くなるの?

 電力自由化をしたら、電気代が安くなるかといえば、コスト構造から考えるとありえないんですね。なぜなら、電気というものは、本質的に誰が作ってもコスト構造が変わらないというところに、自由化の難しさがあります。

 日本の電力供給の約90%を賄う電源が火力発電である今、新電力でも、大手電力でも、そのほとんどが火力発電で作った電気を売っていますよね。でも、火力発電の燃料代は、誰が調達しても変わりません。逆に小さな火力発電であれば、資源調達力が効かず、高くなってしまいます。

 もう一つの問題が、大手電力であれば、発電の選択肢が複数あります。例えば石炭火力があって、LNG火力があって、石油火力があり、その時に一番安いもので発電すればいい。

 だが、新電力は発電設備を持っていたとしても、電源は一つしかない。今、LNGの輸入価格が歴史的な安さになっていますが、天然ガス火力が将来にわたって安いかといったら、そんな保証はどこにもないわけです。

 歴史的に見ると、第一次オイルショックが起った1973年から40数年間、一番安い化石燃料は常に石炭です。ということは、石炭火力を持った人には勝てないということです。


Question2
競争環境を作っても、電気代は下がらないの?

 供給源を増やす、競争を招くことで電気代を下げるということが、自由化の目的の一つです。しかし、電気は競争を招いても下がらないから、総括原価主義だったわけです。

 主要先進国で真っ先に自由化をし、四半世紀近く経ったイギリスでさえ、うまくいっていません。

 イギリスは2012年〜13年にかけて、一般家庭向け新電力のシェアが1%まで低下してしまいました。皮肉にも競争環境を作りだしたことで、大手6社が買収を進め、寡占化が99%まで高まり、新電力は1%まで追い込まれてしまったわけです。

 しかも、大手6社のうちイギリス企業は2社しかおらず、あとの4社はドイツとフランス、スペイン企業となってしまった。99%もの寡占化に、イギリス政府も慌てふためき、『大手6社に小売り部門に電気を売らず、市場に売ってくれ。新電力は市場で電気を調達してくれ』と無理やり市場環境を作りだし、16年に入ってようやく10%を超えた状態です。

 しかも、イギリスは自由化した結果、標準家庭向け電気料金が2倍以上高くなっています。1990年の大口自由化以降、99年に全面自由化へと舵を切り、確かに最初の10年間は、電気代は下がりました。しかし、それには理由があり、政府が北海油田の天然ガスを安く売ったので、発電コストが下がり、電気代が安くなったのです。

 ところが、2000年から01年にかけ、天然ガス産出量がピークを迎え、減少に転じる。一時は、輸出するほどだった天然ガスも輸入しなければならず、00年を過ぎると急激に電気代が上がり始めたのです。15年に63.7ポンド/MWhだった標準家庭向け電気料金は、15年前半には157.1ポンド/MWh、2倍以上高くなってしまいました。


Question3
自由化によって、なぜ寡占化が進むの?

 結局、燃料代が上昇しだすと、多様な発電設備を持っている人ほど強い。だから発電部門を買収しにいくわけです。また電気というのは、発電部門と小売り部門の2つを持っていなければ苦しい。

 なぜかというと、小売り部門しか持っていなければ、発電コストが上がれば、調達価格も上昇してしまう。でも、一般家庭と契約した電気代はすぐには値上げできず、もしかすると、赤字でも売らなければいけない。

 しかし、発電部門を持っていれば、小売りが仮に赤字になっても、発電で儲けられます。発電、小売りどちらも持っていなければ苦しいので、イギリスでは寡占化が進んだのです。


Question4
イギリスの自由化は、失敗しちゃったの?

 失敗とまでは言えませんが、90年から始めて、四半世紀が経ちますが、その結果はまだ出ていません。自由化の一番の問題は、発電設備に投資をする人が減ってしまうことです。

 将来の燃料代がどうなるのかわからなければ、売値もわからない。そんな事業をやる人はいませんよね。しかも、電気はためようとすると非常にコスト高になるので、最需要期にしか稼働しない発電機が絶対に必要となります。しかし、自由化した市場で、1年に1週間しか動かない、そんな設備なんて誰も作りたくありません。

 けれど、発電設備が老朽化していき、新設投資を誰もしなければ、いずれは停電を引き起こしてしまいます。

 さらにイギリスには特殊な国内情勢があったのだと思っています。なぜ、サッチャー元首相が自由化を実施したのか。それは過激な炭鉱労働組合を嫌っており、彼女は潰したかった。潰すにはどうすればいいか。発電所をなくして仕舞えばいいと考えたのではないか。

 北海油田から本格的に発掘され始めた天然ガスと石油に切り替えれば、石炭は必要なくなる。石炭が減ると、自然と炭鉱労働者の首も切れる。

 これがサッチャー元首相の狙いの一つだったと思いますね。現実に、イギリスは自由化した途端、石炭生産量が減少します。20世紀初頭、約3億tあった石炭採掘量は、サッチャーが首相になった時点でも1億t以上あり、炭鉱労働者は24万人いた。それが今や2000人まで減少しているのです。16年には、イギリス最後の炭鉱が閉鎖されたので、この2000人もほとんどゼロになるでしょうね。

 こうした国情から、石炭火力の余剰設備を失い、電気代の高騰を招いてしまったわけです。

Question5
自由化市場では、誰も発電所を作らないの?

 イギリス政府も相当な危機感を持っており、14年末から『発電しなくても、設備を作ってくれたらお金をあげます。だから、設備を作ってね』というキャパシティマーケット(容量市場)というものを始めました。

 容量市場とは、総括原価主義の形を変えたもので、異なる点は、総括原価主義は効率を考えた上で、報酬率を決めますが、イギリスの容量市場は入札制度。安い人から決まっていきます。

 入札だからいいだろうと思いがちですが、新設投資にはかなりのお金がかかります。結局、償却が終わった既存設備が落札した上に、『温室効果ガス排出量を削減するために、石炭火力を減らしましょう』と言っていたにもかかわらず、入札をやったら、石炭火力が20%も増えてしまいました。入札制度の欠陥ですね。今や新設設備は200万kWしかなく、自由化以降、およそ1000万kW、電源が減ってしまいました。

 


Question6
イギリスって、停電しちゃうの?

 今年の冬は危ないかもしれません。イギリス政府は『今冬は停電になるかもしれません』と警告を出しています。イギリスは電力需要量がピークを迎える冬期の夕方が一番危ない。そのため、昨秋にも『冬場の夕方はできれば、工場を止めて欲しい』という要請を監督官庁が出したほどです。

 また原子力発電所を建てたら、政府が35年間、固定価格で電気を買い取るという制度も導入しました。差額保証契約と呼んでいますが、原発のFIT(固定価格買い取り制度)ですね。『市場価格が下がったら、補てんします。市場価格が約束した買い取り価格より上がったら、返してね』という制度なので、差額保証契約と言っていますが、基本的にはFITと同じです。

Question7
日本でも電源が減って、停電が起こってしまうの?

 電気は非常に特殊な製品で、製品の売れる値段がわからなければ、1年間で1週間しか動かない設備が出てしまいます。稼働率の低い設備を、誰が作るのというのが、自由化の一番の問題です。

 日本は今、総括原価主義ですから、設備を作ったらお金がもらえるので、設備を作っていますけど、総括原価主義でなくなったら、作りたくないでしょうね、誰も。だから、みんな、コスト競争力の高い石炭火力を作りたがるんです。でも、石炭火力は温室効果ガスを多く発生させてしまいます。将来、炭素税を課税されたら、コスト競争力はいっぺんにそがれるでしょう。

 結局、稼働率の低い設備を作る政策手段が必要だということです。それは何なのか。イギリスの言うような容量市場なのか。あるいはドイツが言う緊急用設備なのか。

 イギリスと違って、ドイツは太陽光発電が大量に入っています。ただし、太陽光発電の稼働率は11%程度しかありません。ということは、残りの時間を必ず天然ガスや他の電源で埋めないといけないわけです。

 ところが、ドイツでは一時休止中の火力発電が非常に増えており、およそ15%が休止する事態に陥っています。それはなぜか。自由化された市場の中で、FIT制度という政策支援でしか入らない再生可能エネルギーが入ってきて、燃料代がゼロだということで、再エネが真っ先に売れる電源になってしまっているからです。

 需要から押し出された、必要のない電気を火力で作っても、売れませんから、休止状態になっているわけです。太陽光発電のバックアップ電源として必要であるにもかかわらず。

 さらにデンマークでは、風力発電で夜間、必要のない電気が出来ても、FIT制度で買い取りを保証していますから、引き取った挙句、捨てられませんので、ドイツやスウェーデン、ノルウェーに、お金を払って、引き取ってもらっている状態です。

 またドイツの環境大臣は、『2050年までに石炭火力を全廃する』と発言していますので、このままいくとドイツも停電に追い込まれるかもしれません。

 14年まではドイツも容量市場をやると言っていました。ところが、イギリスの容量市場の結果が芳しくなかったため、ドイツ政府は、『容量市場はやりません。その代わり、石炭火力を閉鎖しないで置いておきます』と方針転換をしました。

 緊急用設備として維持していくのはいいのですが、その費用はどうするのか。イギリスにしても、ドイツにしても、残念ながら試行錯誤の状態なのです。


Question8
日本の自由化、世界と比べてどこが特殊なの?

 世界的に見て、携帯や通信のセット販売という事例はほとんどありません。なぜなら、電気代は月々、1万円から1万5000円程度で、電力事業の利益率は低いと言われています。イギリスでも、利益率は5〜6%ほどしかありません。5〜6%だとすると、1家庭あたり毎月、500円程度しか儲からない計算になります。携帯代を割引くにしても、ポイントを出すにしても、出せる原資は限られていますので、それほど安くはできないでしょう。

 もし、ポイントをたくさん付与すれば、あっという間に電力会社は赤字になってしまいます。そのため、携帯や通信のセット割といったサービスは世界的に見ても、ほとんど例がないのです。

 ある日突然、『割引制度を変えました』『ポイント制度をやめました』という会社が出るかもしれません。やはり、ポイントやセット割に惑わされず、本体の電気料金がどうなるのか。この1点で選んだ方がいいと思います。


Question9
日本の電力会社はこれからどうなるの?


 電力事業は、大きな発電シェアを奪えば奪うほど、原価低減が図れるので、競争力が高まります。自由化をした海外事例を見ると、どの国も電力会社は淘汰されていっています。

 先述の通り、イギリスでは大手6社のうち、イギリス資本は2社だけです。また、ポルトガルの送電会社の最大手は中国企業です。イタリア最大の送電会社も中国で、ギリシャでも送電会社の買収を中国企業が進めています。

 電力事業の基幹インフラを、政治体制が違う国に買収されるのは、問題だと思いますが、要は、電力事業も国際化が進んでいるということです。

 しかも、日本は少子化で電力需要が減っていきますので、海外進出をしなければ、生き残れないでしょう。しかし、独・イーオンといった巨人たちと世界で戦うとすれば、企業の規模を拡大させて、電気と都市ガスも一緒にやる。総合エネルギー企業として、グローバル展開をしていくのが、日本の電力会社の将来だと思います。

 

 

やまもと・りゅうぞう●京都大学工学部卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、プール学院大学国際文化学部教授、2010年、富士常葉大学総合経営学部教授、13年より現職。「電力不足が招く成長の限界」(エネルギーフォーラム社)など著書多数

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