一般家庭向け電力自由化が盛り上がるなか、欧米諸国が先行していたことを知った人も多いのではないか。
文化や習慣は違えども、参考にすべきことは多くあるだろう。
今回、電気料金比較サービスを欧州7か国で展開するセレクトラ代表のグザビエ・ピノン氏に、
母国フランスを中心としたヨーロッパの電力事情を聞いた。
――ヨーロッパにおけるスイッチング事情を教えてください。
ヨーロッパの場合、北ヨーロッパと南ヨーロッパに分けた方がいいと思います。まず、イギリスやドイツを含む北ヨーロッパは、自由化マーケットが成熟しています。みんながきちんと電気料金を比較し、スイッチングしています。
一方、フランスやスペインなどの南ヨーロッパは、そこまで成熟しておらず、電力会社を乗り換えた人はあまり多くありません。たとえばフランスだと、2007年に電力とガスが自由化されたにも関わらず、自由化前からの独占企業である「EDF」が、いまだに89%のシェアを持っている状況です。
――フランスで自由化が浸透しなかった要因は何ですか。
日本では地域独占とはいえ、10社の一般電力が存在しています。ですから、東京にいても関西電力や中部電力を知っているので、切り替えのイメージがしやすい。
その点、フランスではEDF1社の独占が続き、フランス国民にとって、電力会社と言えばEDFしか知らず、それが大きな理由です。現在でも、電力会社を選ぶことができると認識しているフランス人は、55%しかいません。
――フランスでは何社の新電力が参入したのですか?
12社の新電力がいます。その内、1~2社は売上とシェアを伸ばしていますが、それでも、とても小さな会社です。
――日本では約300(2016年4月7日時点で279社)の小売り電気事業者が登録済みです。
そのほとんどが小規模のまま存続するか、消えてしまうのではないでしょうか。しばらくは東電など、大手の電力会社が大きなシェアを握るはずです。というのも、彼らは電気に関して長い経験を持ち、顧客数も多い。これからもシェアを握り続けるでしょう。それでも1~2社は、シェアを伸ばして大きくなっていくのではないでしょうか。
――日本でこれだけ参入企業が増えた背景には、地域密着で特定の需要をターゲットにした新電力の存在があります。フランスではいかがですか。
先ほど自由化以前は、EDF1社だったと申し上げましたが、厳密には95%がEDFの独占で、残り5%は地域に根ざした小さな電力会社がシェアを持っていました。
そういった地域密着型の電力会社は、5%の中に150社も存在しています。ただし、日本のように、新たに地域に根ざした新電力をつくり、顧客を獲得して電力を売ろうという傾向はありません。
「必ず安くなるプランや、料金が変わらないプランなどがある」
――フランスの電気料金プランについて教えてください。
フランスでは、EDFによる規制料金がいまだに存在しています。基本料金に加えて使用量料金が加算されますが、日本の3段階制のように、使用量が多くなると価格が上昇する仕組みではありません。
それ以外の主な料金プランだと、まず「INDEXed」プランがあります。EDFの規制料金より、必ず5%なり、10%なり、安くなるというメニューです。規制料金が上がれば、INDEXedプランの電気料金も上がりますが、割引率が一定なので規制料金よりも高くなることはありません。
また、もう一つが「FIXed」プランといって、規制料金の変動に関わらず、電力の使用量に応じた料金単価が一定のプランです。いつでも同じ単価なので、規制料金よりも割高になる場合もあれば、安くなる場合もあります。
――他にも料金プランはありますか。
オフピークプランというものもあります。電力使用量の多いピークタイムと、それ以外のオフピークタイムで2種類の料金が設定されているものです。
また、スマートメーターが読み取る消費量に合わせて電気料金を連動させたプランもあります。しかし、フランスではスマートメーターの導入率がごくわずかなので、現段階では無視していいくらい契約者は少ないです。
あとは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)のプランもあります。
――フランスでは再エネ賦課金などはありますか?また、国民の間では、どのように捉えられていますか?
フランスも再エネの普及を促すため、日本の再エネ賦課金と同じような税金を導入しています。しかし、フランスでは、電気代と一緒に、賦課金も支払っていると理解している人はあまりいません。また、約75%の電源が原子力によるものです。再エネに関する意識は低いといえます。
その理由として、福島で起きた原発事故のような経験をしていないからです。1986年にチェルノブイリの大規模な原発事故が起きた時でも、地理上、ドイツは影響を受けましたが、フランスは直接的な被害を受けませんでした。原子力の悪影響を受けておらず、いわば無頓着な状態なのです。
ただし、フランスはCO2排出量が最も低い国の一つです。原子力のことを言われがちですが、ドイツは脱原発へと動く一方で、発電を石炭に頼り、CO2の排出に関しては優等生とはとても言えません。
将来的には原子力の量は減らすべきだと思いますが、ドイツのようにCO2の排出量が増えてしまったら意味がありません。原子力をやめた後に、どうやって電力を発電していくのか、計画していくことも必要です。
「乗り換えタイミングの最多は、引っ越し」
――日本で展開するセレクトラの電力料金比較サービスについてお聞かせください。
セレクトラのサイトで料金比較をすると、料金シミュレーションの横に電話番号が表示されます。その番号へ電話をすれば、我々のコールセンターにつながり、料金プランをスイッチングすることができます。日本でも、東京電力と東京ガスと契約を締結済みで、サービスは5月から開始する予定です。

――自由化の認知度が低いフランスで、比較サイトを始めたのはなぜですか?
2007年に会社を立ち上げて以降、南ヨーロッパの7か国で、電力・ガス料金の比較サービスを提供していますが、残念ながら私たちは認知度の低い国でサービスを展開しています(笑)。
ただし、今までの経験則から、電気を乗り換えるタイミングの多くは、引っ越しの時だとわかっています。
そこで不動産会社と協力し、引っ越しをする人に向けて、リーチをかけています。
――日本ではどのようなサービスを展開するのですか。
日本の自由化以降に起きる変化を見て考えたいと思います。北ヨーロッパのように、積極的に電気料金を比較して最適な料金プランを選ぶ人が増えるのか、南ヨーロッパのようにあえて電力会社を選ばず、引っ越しなどのタイミングで乗り換えるのか。
とにかく我々は、全ての料金を紹介し、公平に比較できるようにします。また、電力会社と協力し、セレクトラだけの特別なプランをつくって、販売したいですね。
【セレクトラ】
2007年設立。フランスをはじめ、スペイン、イタリアなど欧州7か国で電気・ガス料金の比較サービスを展開。
2015年のグループ総売上高は、951万3,276ユーロ(日本円で約11億7000万円)。
http://selectra.jp/