知っとんね?『みやまの会社』が、電力小売りを春から始めるばい!!。福岡県みやま市が出資するみやまスマートエネルギーのキャッチフレーズだ。
『みやまんでんき』という名に、まだ馴染み薄という人は多いかもしれない。だが、いずれ全国区になるだろう。なにせ、新電力では誰も提供できなかった「曜日別料金プラン」「オール電化向けプラン」を設定したのも初なら、水道料金とのおまとめ払いによる割引も初めて。電気と一緒に高齢者の見守りといった生活支援サービスまでお届けする取り組みも、もちろん全国初。
自治体新電力の先駆け、みやまスマートエネルギーに九州圏内の自治体がこぞって訪れる人気の秘密が、料金プランと充実した生活支援サービスにある。
まずは料金プラン。実はみやま市、家のエネルギーを監視して、電気の「見える化」を可能にするHEMSを使った経済産業省の実証事業、大規模HEMS情報基盤整備事業に参画した唯一の自治体でもある。
2000世帯の市民にモニターになってもらい、無料配布したHEMSを使って15年度の1年間、みやまの暮らしぶりを分析。そこで得た情報が、「2000世帯の平均電気代が、月額1万4000円程度だった」(エネルギー政策推進室の藤吉裕治室長)という。
大きな家屋が多いみやまでは、電気使用量もおのずと増え、年間平均使用量は6472kWh。「すべての世帯で必ず安くなるように」(藤吉氏)と設定したのが、従量料金プランだった。どんな暮らしぶりか、迷った人にとって安心感を呼ぶ。
みやまんでんきは、
「料金」「支払い」「ポイント還元」
お得の3段重
みやまんでんきの特徴はこんなものじゃない。その一つが先の曜日別料金プラン。例えば農家や床屋さんなど、土日が休みの職業ばかりとは限らない。そこでみやまは、平日が安く、休日を高くする『休日お出かけプラン』、逆に平日が高く、休日が安い『休日だんらんプラン』を設定。
しかも、オール電化プランまで用意するというきめ細やかな対応ぶり。電気使用量は、世帯人数が一緒でも暮らしぶりで大きく変化するもの。2000世帯の消費データを1年がかりで集めたみやまだからこそ、提供できたメニューであり、各家庭の消費データを持たない新電力は、そもそも料金設定すらままならない。
オール電化はなおさらのこと。なぜなら、既存電力は非常に割安な夜間電力を武器に、戦略的にオール電化を増やしてきた経緯がある。他の新電力はあまりの安さにサジを投げ、オール電化を対象外にしたほど。
とはいえ、みやまも真っ向価格勝負を挑めば勝ち目はない。だったら「単価は少し高いが、夜の安い時間帯を長くしよう」(藤吉氏)。
夜22時から翌朝8時までの10時間、11円/kWhの料金単価を設定する九州電力に対し、みやまは16円/kWhながらも、夕方18時から翌朝8時まで、「1日のうち、一番電気を使う夕食の準備中でも、電気が安くなるよう」(藤吉氏)時間帯を拡大したわけだ。
全市民に電気をお届けする、という行政ならではの取り組みは、支払いメニューにも色濃く反映されている。業界初と謳うのが、『水道料金セット支払いメニュー』だ。電気と水道料金をおまとめ払いすれば、電気料金(基本料金)が毎月50円お得になるというもの。また九州圏に家族が住んでいるというご家庭なら、3親等までの家族が一緒に契約すれば、各世帯の基本料金を毎月50円値引きするという『家族おまとめ契約』まで。どちらか一つ選べ、選ぶだけで年間600円お得になる。
ここでお気づきの方も多いだろう。そう、みやまの供給エリアは福岡県も超え、九州全域(一部、離島などは除く)までカバーするという。
さらに、省エネ意識の向上を目的としたHEMS利用者専用『目標設定支払いメニュー』なんていうものも。仕組みは簡単。前年実績から、今年1年間の電気料金の目標を任意で設定するだけ。例えば、電気代が1万4000円〜1万6000円の間を行ったり来たり。そんなご家庭が、目標値を1万4000円とすれば、この金額を毎月支払っていく。
見事、節電に成功し、1万4000円以下となれば、その差額をポイントで還元してくれる。
電気が、
人と企業の絆を深める
「買い物難民の人でも、バーチャル商店街、みやま横丁で好きなものを買え、商品のデリバリーもする。高齢者の見守りも、タクシー予約や病院予約も。御用聞きのご要望があれば、『なんでもサポートすっ隊』」。みやまスマートエネルギーの磯部達社長は、生活支援サービスの全貌について話す。
みやま横丁で買える商品は、100店舗(農家などの個人含む)。もちろん市民のニーズを汲み取った品揃えを目指すとともに、「味は美味しいのに、曲がってしまって流通できないキュウリやナス。そんな野菜を売れる販売チャネルにもなるし、みやまで採れた特産品を6次加工した缶詰やジャム。そんな商品も買えるようにできれば」と藤吉氏も続く。
こうした生活支援サービスはタブレット端末をプラットフォームに提供される仕組みだ。災害情報があれば、タブレットに流す。またタブレットのボタン一つ押せば、スカイプにつながり、お互いの顔を見ながら会話ができる。見守りの一環にもなるし、犬の散歩や電球交換といった日常生活のお困りごとがあれば、なんでも応える、それがなんでもサポートすっ隊だという。
ここで一つ疑問が。電気を契約すれば、生活支援サービスは無料で利用できるが、タブレットやサーバーはどうすればいいのか。「電気(2年契約)と通信のセット割であれば、タブレットを無償で提供します」と磯部氏。通信回線も、『みやまんねっと』という名で、6月頃から提供を始める予定だという。

【写真】タブレット端末には、電気の使用状況のほか、災害情報などが流れる。ボタンひとつでみやま横丁、なんでもサポートすっ隊にアクセス
10年後、電力の地産地消が当たり前の時代になることを目指す、みやま。西原親ちかし市長は「市民のための、市民による電力会社を作りたかった」と想いを語る。誰もが使う電気を通じて、こんな街に住みたい、そう思わせる取り組みがみやま市から、始まろうとしている。
みやま市を新しい時代の
最先端都市にする

合併を経て誕生したみやま市の名前を誰も知らない。全国に何とか知らしめたい、それが私を動かした要因の一つです。
もう一つ、みやま市は農作物が盛んな地域。日照量に恵まれており、土地もあった。有明炭鉱跡地に22MWもの太陽光発電所ができたんです。これに触発されて、市が持つ3万坪の土地に、40人ほどのみやま市民から約1億円もの出資をいただいて、市も2000万円拠出し、『みやまエネルギー開発機構』を設立して、5MWの太陽光発電所を作ったわけです。
太陽光発電所だけでも、60MWあるんですよ、今、みやま市には。市町村としては最大級だと思います。こうした太陽光発電を中心に、再生可能エネルギーから作った電力を地産地消する。電力自由化を通じて、環境保全・市民サービスの充実を目指しています。
みやま市が電気をお届けすることで、あらゆるサービスを提供できるようになります。買い物支援やデリバリーも、高齢者の見守りや、病院へ行ったり、災害情報をいち早く知らせたり。とにかく生活しやすい街にするということが、大きな目標の一つです。
実は今、新しい計画を進めているんですよ。近隣の自治体にみやまスマートエネルギーに出資をしていただき、我々が電気を売る。売った電気で得た利益、例えば利益の75%を近隣の自治体にお返しをする。そうなれば、地方創生にもつながりますよね。
『市民のための、市民による電力会社を作る』。これがキャッチフレーズです。みやま市民の70%にみやまスマートエネルギーから電気を買ってもらえ、近隣の自治体ともつながりあえば、近い将来、50億円、100億円の売上規模になるのではないでしょうか。