コラム

地域への想いが地熱発電を育む 大分県/西日本地熱発電

全国有数の温泉地として知られる大分県別府市。
この街にある豊富な地熱資源は、暖房や竈(かまど)など、
温泉以外にも積極的に活用されている。
地熱発電も有力な電源候補と言えるはずだ。
実際に、この地で地熱発電に取り組む事業者の声を聞き、
地熱発電の今をのぞいた。

 大分県別府市は、温泉の湧出量・源泉数ともに日本一として知られ、市内の至る所で湯けむりの立ち込める街である。今回、訪れた堀田温泉は、市内の代表的な温泉の総称『別府八湯』の一つ。別府駅から湯布院方面への坂道を、車で20分ほど登ったところにある。距離にして約5㎞だが、気温が駅から4度近くも下がるそうで、2月の取材当日は細かな雪が舞っていた。

別府に住んで50年

 この地熱資源に恵まれた土地ならではの方法で、地熱発電と向き合う人物がいる。西日本地熱発電の小俣勝廣社長だ。現在68歳の小俣社長は1966年から別府市に移り住み、31歳で独立。地元で電気工事や水道工事、温泉工事を手がける小俣電設工業の代表を務めてきた。そして2013年、以前から興味のあったという地熱発電事業を行うため、他3社との共同出資で西日本地熱発電を設立する。

 同社のビジネスモデルは、いたってシンプル。泉源を持つ温泉事業者や個人から土地と蒸気を借りる。そこに同社が地熱発電所を建設し、発電した電気をFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取り制度)を利用して九州電力へ売る。得た収入の一部を、土地と蒸気の所有者にレンタル料として支払う、というものだ。現在、日帰り温泉施設の五湯苑から賃借した『五湯苑地熱発電所』と、個人宅から賃借した『湯山地熱発電所』の2か所を運営している。発電規模はともに100kW程度だ。

 レンタルで泉源を利用するメリットは大きく2つある。一つは、発電に適した泉源を探し当てる時間や費用が大幅に削減できること。もう一つは、余った蒸気を有効に活用できることだ。

 例えば湯山地熱発電所の泉源所有者は、蒸気を温泉や室内暖房、乾燥庫など様々な用途に利用している。ただし、それらは噴出量の20%もあれば賄えるので、80%近くの蒸気は捨てることになる。地熱発電所を作ることで、自然エネルギーを無駄なく活用し、収益にできるというわけだ。

【写真】神戸製鋼所製のバイナリー発電機。70kW機を2台使用する

発電設備を蝕むもの

 一見すると、低資金で地域の資源を活かす合理的な事業に思える。しかし、稼働開始から2年、いくつかの課題にも直面した。なかでも蒸気に含まれる硫化水素や、スケールと呼ばれる付着物による発電設備の腐食には、今も悩まされている。「硫化水素やスケールで、インバーターやコンバーターなどの基盤が壊れてしまう。修理に時間やコストを費やすので、トータルで採算が取れているとは言い難い。蒸気の効率的な使用方法も含め、解決すべき問題は多い」(小俣社長)のが実情だ。

 それでも、小俣社長は「大分県の協力を得て、硫化水素やスケールによる腐食防止の実証試験を行っている。発電所ができて間もないので、様々なことを勉強しながら運営していきたい」と前向きに話す。

【写真】付着物による腐食は防止が難しく、安定稼働の障害となっている

地域との共生を目指して

 小俣社長に2か所の発電所を案内してもらった。両発電所に共通するのは、周囲の環境面だ。堀田温泉付近は元々穏やかな住宅地だが、発電所は森林に囲まれた民家のない場所にある。小俣社長は、「地熱発電所をつくるには、蒸気の温度や量、冷却水に使用する水の確保が重要だが、まずは周辺の環境から考える。近所に民家があると苦情が出る可能性もあるし、そうなると稼働もままならなくなる」と理由を説明する。道の途中には、民家が密集する地帯で勢いよく蒸気を噴出する他事業者の発電所があった。実際に、近隣住民とのトラブルにも発展しているそうだ。

 『地域との共生』は、地熱発電業界全体が抱える問題である。すでに別府市では、地域共生を図る独自の条例整備も進められているようだ。小俣社長は言う。「地熱発電は利益だけを望んでいる人には向かない。地の利を活かしつつ、地域で何がネックになるかを理解することが必要だ」。

 地域への想いがなければ、地熱発電を推進するのは難しいのかもしれない。課題はあるにせよ、エネルギー資源に乏しい日本で、世界第3位の地熱資源を活かさない手はないだろう。この先、普及への手がかりが、この穏やかな温泉地から発信されるのかもしれない。

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